消防士の父

2020.08/12

オレの親父は、消防士だった。
いつ何があってもおかしくない仕事だから、よく母に「オレに何かあっても、お前らが苦労し
ないようにはしている」ってそう言っていたのを覚えている。
 親父は、とてもあつい人間で、「情熱」って言葉が大好きだった。
 口数の少ない親父が、久しぶりにオレたち息子に口を開いたかと思うと、「情熱だけは持ち続けろ」って「何かに本気になってみろ」ってそればっかりだった。
 あの日、緊急要請が入って夜中の2時頃、親父は火事現場に向かっていった。
 物音に起きて、部屋のドアを開けて見た親父の背中が、オレが親父を見る最後の機会になった。
 親父は、火事で倒壊してきた建物の下敷きになって、病院に運ばれたものの死んだ。
朝、母からそれを聞いた時、信じられなかった。
いつもみたいに、疲れた顔して帰ってきて、「母さんビール」なんて言う、そう思えて仕方なかった。
 でも、灰だらけになって眠る親父の顔を見て、一生目覚めないその顔を見て、それが現実だとわかった。
悲しくて、涙が止まらなかった。
でも、同時に誇らしかった。
 親父は灰だらけでボロボロで、もう目覚めなかったけれど、あの日の火事では、全員救出できたそうだった。
 最後まで、「人を助けるっていう情熱」を失わなかった。
 他人から見ればただの一介の消防士にすぎないだろうけど、オレにとっては、最後まで最高にかっこいい親父だった。
 そんな親父の最後が誇らしくて、何故かさらに涙が溢れた。
 あれから12年、オレは親父と同じ仕事に就いている。何年も働いているが、今でも現場に向かう時は怖い。
 それでも、向かうことが出来るのは、オレがこの仕事に「情熱」を持っているからだ。
あの時、最後まで親父が持っていたように。ありがとう、親父。
 あんたの背中を見ていたから今、火の海に飛び込んでいける。
怖くても足を踏み出していける。
本当に、ありがとう。
誰一人死なせはしない。

お父様の生き様を受け継ぎ、同じ仕事の消防士になられたことに感激を覚えました。
「情熱」という言葉!私も大事にしています。何事も「情熱」なくして始まらない!改めて、
そう感じました。

 目指すべきお父様であり、憧れのお父様でもある。そんな父親に私もならねば!

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