ありがとうマンが贈る
〜心に残るありがとう〜 話
2021.01.13
付き合って3年の彼女に唐突に振られた。「他に好きな男が出来たんだー、じゃーねー」就職して2年、そろそろ結婚とかも真剣に考えてたっつーのに、目の前が真っ暗になった。俺は本当に彼女が好きだったし、勿論浮気もしたことないし、そりゃ俺は格別イイ男って訳じゃなかったけど、彼女の事は本当に大事にしてたつもりだった。なのに、すっげーあっさりスッパリやられた。
どーにもこーにも収まりつかなくて、電話するも着信拒否、家行ってもいつも留守、バイト先も辞めてた。徹底的に避けられた。もーショックですげー荒れた。仕事に打ち込みまくった。それから半年、お陰で同期の中でダントツの出世頭になってた。彼女の事も、少しずつ忘れ始めてた、そんなある日。携帯に知らない番号から電話がかかってきた。最初は悪戯とかだと思って無視ってたんだけど、何回もかかってくる。仕方ないから出た。別れた彼女の妹を名乗る女からだった。その女が俺に言った。「お姉ちゃんに会いに来てくれませんか?」・・・彼女は白血病にかかっていて、入院していた。ドナーがやっと見つかったものの、状態は非常に悪く、手術をしても助かる確率は五分五分だという。入院したのは俺と別れた直後だった。俺は、病院へ駆けつけた。無菌室にいる彼女をガラス越しに見た瞬間、俺は周りの目を忘れて怒鳴った。「お前、何勝手な真似してんだよっ!俺はそんなに頼りないかよっ!!」彼女は俺の姿を見て、しばらく呆然としていた。どうして俺がここに居るのかわからない、という顔だった。その姿は本当に小さくて、今にも消えてしまいそうだった。でもすぐに、彼女はハッと我に返った顔になり、険しい顔でそっぽを向いた。俺は、その場に泣き崩れた。堪らなかった、この期に及んでまだ意地をはる彼女の心が。愛しくて、悲しくて、涙が止まらなかった。その日から手術までの2週間、俺は毎日病院に通った。けれど、彼女は変わらず頑なに俺を拒絶し続けた。そして手術の日。俺は会社を休んで病院に居た。俺が病院に着いた時にはもう彼女は手術室の中だった。手術は無事成功。けれど、安心は出来なかった。抗生物質を飲み、経過を慎重に見なくてはならないと医者が言った。俺は手術後も毎日病院に通った。彼女は、ゆっくりではあるけれど、回復していった。
そして彼女は、相変わらず俺の顔も見ようとしなかった。ようやく退院出来る日が来た。定期的に検査の為、通院しなくてはならないし、薬は飲まなくてはならないけれど、日常生活を送れるまでに彼女は回復した。俺は当然、彼女に会いに行った。お祝いの花束と贈り物を持って。「退院、おめでとう」そう言って、花束を手渡した。彼女は無言で受け取ってくれた。俺はポケットから小さい箱を取り出して中身を見せた。俗に言う給料の3ヶ月分ってヤツ。「これももらって欲しいんだけど。俺、本気だから」そう言ったら、彼女は凄く驚いた顔をしてから、俯いた。「馬鹿じゃないの」彼女の肩が震えていた。「うん、俺馬鹿だよ。お前がどんな思いしてたかなんて全然知らなかった。本当にごめん」「私、これから先だってどうなるかわからないんだよ?」「知ってる。色々これでも勉強したから。で、どうかな?俺の嫁さんになってくれる?」彼女は顔を上げて、涙いっぱいの目で俺を見た。「ありがとう」俺は彼女を抱きしめて、一緒に泣いた。ウチの親には反対されたけど、俺は彼女と結婚した。それから2年。あまり体は強くないけれど、気は人一倍強い嫁さんの尻に敷かれてる俺がいる。子供もいつか授かればいいな、という感じで無理せず暢気に構えてる。
-後日談-
嫁さんのお腹に新しい命が宿ってるってわかった。「子供は授かりものだから、無理しないでのんびり構えとこう」とか言ってたけど、正直諦め気味だった。まだ豆粒みたいなもんなんだろうけど、俺と嫁さんの子供が嫁さんのお腹の中にいる。そう思っただけで、何か訳の分からない熱いものが胸の奥からこみ上げてきて、泣いた。嫁さんも泣いてた。実家に電話したら、結婚の時あんだけ反対してたウチの親まで泣き出した。「良かったなぁ、良かったなぁ。神様はちゃんとおるんやなぁ」って。
嫁さんの親御さんは「ありがとう、ありがとう」って泣いてた。皆で泣きまくり。嫁さんは身体があんまり丈夫じゃないから、産まれるまで色々大変だろうけど、俺は死ぬ気で嫁さんと子供を守り抜く。誰よりも強いお父さんになってやる。でも、今だけはカッコ悪く泣かせて欲しい。
今年も、「心に残るありがとう」をお届けします。よろしくお願いいたします。