ありがとうマンが贈る
〜心に残るありがとう〜 話
2024.02.01
もう20年以上前のことです。古びたアパートでの一人暮らしの日々。安月給ではあったが、なんとか生計を立てていました。隣の部屋には50代のおとうさんと、小学2年生の女の子、陽子ちゃんが暮らしていました。
お父さんとは挨拶を交わす程度でしたが、陽子ちゃんとは洗濯場でよく会い、話す機会が多かったのです。
ある夕方、彼女と話していると、私のお腹が「グー」となりました。陽子ちゃんとは「お兄ちゃん、お腹空いてるの?」と心配そうに。
「まあね」と答えると、彼女は「ちょっと待ってて」と言って部屋に入り、しばらくして形のいびつなおにぎりを持ってきてくれました。味はないけれど、彼女の優しさが心に沁みました。
その後、彼女との出会いは途絶えました。どうしたのかな、と思う程度でしたが、心の隅で気になっていました。
ある日、帰宅すると救急車が止まっていました。大谷さんに聞くと「無理心中だよ」とのこと。
救急隊が担架を運び出してきました。小さな体が毛布に覆われていました。まさか、陽子ちゃん?
後になって知ったのですが、お父さんは病気がちで、ガスも水道も止められていたそうです。電気も止められ、市役所の職員が事情を聞きに来たときに事件が発覚しました。
「あれ?お兄ちゃん、お腹空いてるの?」彼女の言葉が脳裏に浮かびます。あの時、彼女はすでに食べ物がなかったのでしょうか。
食べるものがないのに、私におにぎりを作ってくれたのです。小さな手で一生懸命に。涙が溢れました。やるせない気持ちでいっぱいになりました。
その後すぐ引っ越しましたが、今でもあのアパートの近くを通ると、彼女を思い出します。
いつも自分のことばかり考えて生きている、目の前のことから逃げて生きていけることが、とても恥ずかしくなりました。