ふるさとに
芸術・文化・伝統・風土を育む
船が好きな小川さん、足の向く先は水辺が多いようです。「水辺は生活の場所ですから、訪れるたびに変化しています。自然の風景も季節、天気、温度、風によって驚くほど変わってしまうので、なかなか難しいんです。スケッチも一期一会ですよ」と笑われます。気の向くまま、心をときめかせた風景を精力的にスケッチされます。そのスケッチも8回の個展を開催するまでになり、出店作品も240点余になるそうです。スケッチを描く先々で地元の人達と話し、その場所の良さを改めて発見する楽しみ。これもスケッチの醍醐味だとか。好きなことを楽しむことが、生涯学習として続けられるんですね。
小川さんは油絵を描かれていたと聞きますが、着色する下絵としてのスケッチではなく、スケッチを鉛筆画として描かれているのはなぜなのでしょうとお尋ねすると「たかが鉛筆、されど鉛筆なんです。鉛筆の濃淡、線の強弱や太さによる、厳しさと優しさの詩情豊かな表現は、色彩による質感以上に繊細で難しいものなんです。実際に制作中は、自分の思いが上手く表現できたかと、悶々としてキャンパスに向かっているんですよ」と鉛筆画スケッチのこだわりを話されます。
いつもスケッチブックを持ち歩いて絵を描いていたお父様の影響で、小川さんは子供の頃から絵を描くことが大好きでした。そして中学生になった小川さんに、運命の転機が来ます。中学校の美術のN先生との出会いでした。「その先生は空は青、木は緑という固定概念を捨て、皆さんの思う様に描くことが大事。モノの見方や考え方を変えれば、今まで何気なく見ていたモノに新たな魅力を発見できるという、絵の描き方や多様な表現の仕方を教えてもらいました。それはもうカルチャーショックでしたね」と話されます。その後も美術は憧れにとどまり、のめり込むこともなく中学・高校生活を過ごされました。しかし教職員を目指し大学に進まれる際、頭の中に「N先生の様な美術の先生になりたい」と小川さんは思われていたのです。迷うことなく美術学科を専攻され、風景、人物、鳥や動物を油絵で描き続けられます。その結果、学生時代も教職員になってからも、色々な展覧会に出展されてはたくさんの特選を取ったと振り返えられます。
そして今、地域の美術教師としてお世話になった地域への恩返しにと、身近にある日本の田舎の原風景の美しさを知ってもうために、鉛筆画スケッチ散歩を続けておられるのです。「屋外でのスケッチ活動は自然の持つ美しさに素直に驚き、敬意を表して優しく向き合って描くことが大切だと痛感しています。これからも描き続ける体力がある限り、郷土の大自然の中で無心に絵を描くことを楽しみ続けたいと考えています」と小川さんは話されます。益々のご活躍をお祈りします。