ふるさとに
芸術・文化・伝統・風土を育む
子供の頃から絵を描くのが大好きだった松井さんは「暇があればセーラームーンを描いてました。私の世代なら皆そうでしたよ」と笑われます。中学校では美術部に入り、もっと美術が好きな人達に囲まれたいと、デッサンを習いながら美術専門の高校に進学されます。そこでは版画は勿論、油絵やアクリル画や水彩画を体得されました。美術大学の二年生の時に、世界を舞台に活躍された『旅する版画家』ヨルク・シュマイサー教授との出会いが、松井さんが銅版画の道に進む大きな力となりました。「自由過ぎる色彩絵画より、銅板にドライポイントやラインエッチングという限られた技法で絵を描き、制約の中でのアイディアを活かしてわずかな自由を楽しむことや、版が出来てから刷り上がるまでの心地よい時間差。何より版画が刷り上がる瞬間のワクワク感が好きです。自分が描いた線が版を介して、美しく、重厚感が出たりと変化することも銅版画の魅力なんですよ」と話されます。以来、銅版画一筋に邁進、創作活動に取組まれています。( ※ドライポイントとは銅板にニードルなどの硬い素材で、引っ掻く、突く、転がすなどしてイメージを版に刻んでゆく手法。ラインエッチングとは腐蝕液によって版を腐蝕させる手法。)
松井さんはいつもカメラを持って風景を撮影し、それをヒントに多少デフォルメしてドローイングに使われています。そのテーマは水であったり、ガラスであったり、陰影の強い光であったり、移り変わっていく身近な現象や風景などです。具象的な表現の中に抽象的に表現される風景として、実像と虚像が混在する独特の世界感をモノクロで描かれます。「最近は身の回りにある、様々な自然の現象を描いています。木、樹皮、葉、根の分岐のパターンや水面に映る波紋など、移り変わっていくものを、自分のストロークに重ねで、自分の気持ちを版に表現しています。黒色の着色を銀色に変えたり、版画の制約条件から脱したいと刷り上がった紙に着彩したりと、版画とは違う要素を入れて、新たな風合いを出しています」と話されます。
現在まで、13年平和堂財団芸術奨励賞、14年AOMORI PRINTトリエンナーレ優秀賞、23年京都新鋭選抜展 読売新聞社賞などを受賞され、個展やグループ展を中心に活躍されている松井さん。今年の8月にヘムスロイド村に入村し、10月のヘムスロイドの杜祭りでは、地域に開かれた活動がしたいと、銅版画体験のワークショップを開催され、来年4月からの銅版画教室開催に向けて、良い意味での交流がはかれたようです。「各地での発表の場を広げ、自然に囲まれた工房で、自分の作品づくりを発展させたい」と意気込みを話されます。今後益々のご活躍をお祈りします。