ふるさとに
芸術・文化・伝統・風土を育む
今回は彦根市田附町にお住いの、庭師のフデルマイヤー・ツジ・ヤコブさんをご紹介します。
ドイツのバイエルン地方で生まれ育ち、自然の中で遊ぶことが大好きだったヤコブさんは、自然の風景を楽しんでもらえる庭づくりに携わる仕事に憧れていました。オーストラリアでの留学を終え、帰国後は個人宅の造園業に就かれました。ドイツの個人宅の庭は日本より広く、バーベキューやスポーツが出来る活用的な庭である反面、隣家から見えない庭を造られるそうです。「ドイツ人はプライバシーを守りたい意識が強いうえ、見た目が良い事を重視します。ですから芝生を張り詰めた庭にはコンクリートブロックやネットフェンスではなく、木製の高い塀や高木の生垣を造ることがほとんどなんです。芝生や生け垣はメンテナンスも簡単ですからね」とヤコブさんは話されます。4年間、ドイツで造園の仕事をしていたある日、初めて日本庭の事を知り、強烈な想いが湧いたそうです。「雨に濡れた光る苔、陰に浮かぶ白い小石、それぞれの形を活かした石組み。その美しさに強く感動され、勉強してこんな庭を造りたいと思った」と話されます。オーストラリアで出会った、日本人の奥様の影響もあるんでしょうね。
2020年に来日され、1年間ワーキングホリデーの間に日本語学校で言葉を学び、全国各地の庭を見て回られました。そして結婚。日本での生活基盤が出来、いよいよ日本の庭づくりを学ぶ時が来ました。しかし「どこに行ったら庭師として雇ってもらえるのだろう」と、滋賀県の東近江市を中心とした湖東地域の造園業者をネットで探されました。言葉にも、徒弟制度の厳しい伝統的な指導にも不安がありますし…。ネットで若い人が比較的多く紹介されていたことと、奥様の叔母様のご紹介もあったりで、五個荘地区の会社のお世話になる事が決まりました。
2024年2月から、いよいよ活動開始です。生垣の刈込、土間コンクリート打設やブロック積はドイツで経験済み、草刈り作業にも「日本の植物は育つスピードが速い」と悪戦苦闘、葉刈剪定を学びながら新たな領域に挑戦の毎日です。今年、以前の家にあった石を使って、日本庭園を造る機会に恵まれました。「大きな盆栽の様な庭でしたが、自分で造ると石や木の存在意味が解り、それぞれの置き方も大切だと実感しました。来年はどんな庭になっているかが楽しみです」と笑われます。「ドイツの庭に日本の庭を取入れたい」そんな想いのヤコブさんは「単にコピーするのは嫌、しかも美しいだけでも嫌。日本の庭づくりの意味を持って帰りたいのです。庭づくりの意味を勉強すれば、どうしたら美しく見えるかが解り、おのずと日本庭園の雰囲気が出るはずだから」と話されます。各国の伝統・文化・宗教性がある中で、それらを否定せず活かしながら日本庭園という新たな息吹を吹き込んでいく。ヤコブさんの言葉に「ハッ」とする自分がいます。今回の庭づくりの経験からヤコブさんは、季節の移り変わり、光や風、自然を身近に感じ風景を楽しめる坪庭を、ドイツ人の家族の癒しの場として造りたいと目標変更されました。坪庭なら芸術品の様に特別な存在として、ドイツ人に喜んでもらえるかもしれませんね。想像するだけでワクワクします。
最後に、ヤコブさんに日本で働く感想を聞いてみました。「日本人は忙しいから手入れが必要な庭は作らない。日差しが強くて暑い」とのことでした。ドイツ人が魅力を感じる日本の庭は、日本人には無用の長物になっているのが残念です。ヤコブさんのご活躍をお祈りします。